「親から子へ伝えるきっかけになればええなって思ってます。」~なぎチャイルドホームってどんなところ?第1回~
平成26年に合計特殊出生率2.81を記録し、子育てがしやすいまちと言われている奈義町。
このまちが子育てをしやすいと言われている理由って、なんなんだろう?
ほんとうに子育てがしやすいのだろうか?
そんな疑問を探るべく、今回は奈義町の子育て支援施設「なぎチャイルドホーム」を取材してきました。
第一回目の取材に応じてくれたのは、この施設の「ときどきスタッフ」として活躍されている森藤千春さんです。
春の陽気が訪れた3月下旬。
日差しのあたたかさが心地よい晴れた日に、なぎチャイルドホームを訪れました。
「ああ、草加さん、こんにちは。お待ちしてました。」
子ども達に囲まれながら出迎えてくれたのは、この施設に子育てアドバイザーとして常駐しているスタッフの貝原さん。
貝原さんは20年ほど前にご主人の仕事の関係で倉敷市から引っ越して来られ、
奈義の子育て支援に取り組まれている明るい方です。
私も奈義に引っ越してきて貝原さんには何かとお世話になっているのですが、
そのお話はまた別の機会に。
早速中に通され、本日取材を受けてくださる森藤さんをご紹介いただきました。
森藤さんは、穏やかでとてもやわらかい雰囲気の方。
結婚を機にご主人の故郷である奈義に来られて21年、
3人目のお子さんが産まれて、チャイルドホームの前進である子育て施設にそのお子さんを連れて遊びに行ったことがきっかけで、
今のチャイルドホームに関わっているそう。
「この辺で話しましょうか?いいお話ができるかは分かりませんけど。」
笑いながら案内してくれたのは日当たりのよい窓際の席。
机の上には、チャイルドホームの日々を写したアルバムが置いてある。
「懐かしいわあ。これが私とうちの娘なんです。」
―そうなんですね。見たところ結構前の写真なので、お子さんはもうだいぶ大きくなられてるんじゃないですか。
「はい、この子は末っ子で、この春から中学校2年生になります。子どもは3人いて、あとは大学生と高校生の男の子が二人。」
チャイルドホームができたのが、娘さんが3歳の時。上のお子さんの時はまだそういった施設が無く、同世代のお子さんがいる友人と遊んでいたそう。
それはそれで楽しくて、不便はなかったと言う森藤さん。
―それなのにチャイルドホームによく通うようになったのは、どうしてですか?
「やっぱり家の中ばっかりだとちょっとなあ。ここは色んな人に出会える場所でもあるので。初めての娘だったからちょっと戸惑うこともあって、
他のお母さんにそういう相談もできるし。」
―そうなんですね。2人のお子さんを育てた経験があっても、戸惑うこともありますよね。
「うんうん。子育ては3人目じゃけど、上の子が2人おる中での子育てじゃけん、やっぱり違いますね。
あと、人と話すこととか、人とふれあうことがないと色んな情報も入ってこないし、いいと思いますよ。この空間は、とても。
家で、子どもと一対一で息が詰まりそうになる時もあると思うので、ここに来るとちょっとこう、心にゆとりができるような。」
チャイルドホームには年齢制限といったものがありません。
基本的には平日に開いていて、保育園に入っていない子や、幼稚園帰りの子たちが、
親と一緒に遊びに来ます。
地域の学生やおじいちゃんおばあちゃんまで、誰にでも開かれた空間。
取材したその日も、多くの子どもたちが庭や廊下を駆け回り、とても賑やかでした。
ここはお母さんお父さんたちや町内の色んな大人たちが協力しあって、運営しています。
野菜や穀物を育てたり、おやつや料理をつくったり、浴衣の着付け、絵本の読み聞かせ、お便りづくり、それらのイベントの企画や運営をしたり。
大人が自分のできること、得意なことを通じて子育てに参加できる余白がここにはあります。
―森藤さんは、今ではすっかりここの一員として活躍されていると聞いてるのですが、具体的にはここでどんなことをされてるんですか?
「いえいえ、それほどでもないですけど。私は常勤のスタッフではなくて、ここのスタッフが事情で抜ける時や、
イベントなんかで手が足りない時にお手伝いしたり、おやつの時間、料理の時間という行事を担当することが多いです。
何か食べ物をつくるよって時にお呼びがかかりますね。得意というほどでもないですし、ただただ食べるのが好きなだけなんですけど。」
―実は僕、先日の0歳~1歳児が集まるおやつの時間に少し顔を出してたんですけど、その時はおにぎりづくりを教えてましたもんね。
子どもにもできるように、プラスチックのカップに白ご飯を入れて、振ると丸いおにぎりができてました。
「あ、そういえばあの時草加さんいらっしゃいましたね。そうですね。食育っていうほどのたいしたことではないんじゃけど、
自分でつくって食べるってやっぱり大事なことなので。
便利な世の中じゃけん、コンビニがあれば生きていけるところもあるかと思うんですけど、うちの長男も自炊しとるし、
料理ができるようにならんと。やっぱりできんよりできたほうがいいでしょ?」
そう言いながら笑う森藤さん。
お母さんと子どもが一緒にカップを振りながら、とても楽しそうにおにぎりをつくっていた様子を思い出します。
「買えば何でもそろう時代じゃけど、それでもやっぱり、おやつとかにしてもできあいのものよりかは、ちょっとお母さんがつくった方が、
子どもはすごいって思うだろうし、学校から帰った時に、買ったおやつの袋がポンと置いてあるのもいいけど、
手作りのものがあってもうれしいかなって思ったり。
混ぜるところを手伝えたり、丸めるところを一緒にできたりとか、上手にできんでもええから、
子どももお母さんも食べること、つくることに関心を持ってくれるきっかけになったらええなと思って。」
上手にできなくてもいい。
レシピ通りの作り方、材料の配分、そんなことよりもまず、
食べることやつくることに関心を持つこと、一緒につくることの方が大事。
取材日の午前中には、みんなでいちご大福と桜餅をつくったそう。
「なんていうんかな、買わんでも自分でつくれるんじゃってことを、たぶん今日もお母さんたちの中に感じてもらえた方もいると思うから、
それがうれしいです。
そしたら、じゃあ今度家でもつくってみようかなとか、子どもは今はまだ小さいけん無理じゃろうけど、
幼稚園に行きだしたら一緒に何かつくれるかなとか、そんなふうに思ってもらえるようになればええかなって。
すごい上手な、なんでもできるお母さんお父さんにならんでも、ちょっとでもやってみようかな、苦手じゃけどしてみようかなっていう、
そんな考え方が変わるきっかけづくりになったら、それは有難いなって思いますね。」
―そうですね。
「店先で売られとるものは、味も見た目もすごいええものだと思うんじゃけど、でもやっぱり不格好でも、
わたしがつくったんよって言えたらそれがいいと思うので。今うちだったら、餃子なんかでも娘が一緒につくってくれたりするわけですよ。
中学生の娘がね。私より上手に包むんじゃないかっていうぐらい。そういうのもいいなって思いますね。」
そう言う森藤さんの表情は、嬉しそうで、ちょっぴり誇らしそう。
小さい頃から、お母さんやお父さんがそういう姿を見せて、一緒につくってきたからこそ、お子さんも自然とできるようになる。
―お話を聞いてると、食べることやつくることに関心を持ったり、一緒につくったりすることで、子どもたちだけじゃなくて、
お母さんやお父さんも育っていくのかなって思います。
「そうですね。私ももう10年くらいか、一利用者だった時から関わってるんですけど、
今の小学校高学年くらいの子たちが赤ちゃんの頃からずっと見てきて、そうするとお母さんも成長してるんですよ。10年くらいあると。
そういう姿を私も見てこれたから、それはよかったなと思って。小学校に入ったら、お母さんたちもなかなかここに来る機会が減るんですけど、
久しぶりに会ったら、お母さんも成長していきよるなあって実感します。」
―そうなんですね。そういう姿が見れるのも、森藤さんが長く変わらずここに関わり続けてるからですもんね。
子どもが小学校に入ってお母さんたちがなかなか来られなくなると、少し寂しいですね。
「小学校じゃなくても、子どもを保育園に預けるようになると、お勤めされよる親御さんたちは来れなくなりますね。
その方々が産休育休で休みに入られると戻ってきたりするので、その時はおかえりって迎えてます。
子どもがひとり増えて帰ってくると、また楽しくなりますね。」
―想像しただけでもなんだかいいですね。あたたかいというか。
産休育休の時期に来られる方もいるとのことですが、みなさんだいたいどんなタイミングから、こちらを利用され始めるんですか?
「年齢制限は無いのでいつでもいいんじゃけど、ほんとはね、第1子を妊娠された時からここに寄ってもらえたらいいなと思うんです。
産まれる直前までお勤めをされる方も多いので、なかなかここに来てもらえる機会がなかったりするんですけど。
『妊婦さん集まれ』っていう企画をしていて、妊娠中にとったらいい栄養とか、食べ物を一緒につくったりします。
この前は、ケークサレをつくりました。」
―ケークサレ?
「野菜やベーコンが入った甘くないケーキ。ちょっとお腹が空いた時に食べられて、つくるのも簡単だから、
子どもが産まれてからもおやつとしてつくってあげられるようなものです。
その時は、初めて妊娠されたお母さんや、2人目3人目っていう人も来られとったけど、みんな喜んでくれとって、やってよかったなと思って。
私は栄養士でもなんでもないから、栄養士さんに相談しながら、こんなんどうかな、こっちのほうがいいかなって、助けてもらいました。」
―それは喜んでもらえそうですね。チャイルドホームのイベントに顔を出す度に、自分でつくれるお菓子のレパートリーが増えていきそうで。
「そうですね。妊娠中に限らず、その後もね、子どもはどんどん成長していくから、
これをきっかけに自分のレパートリーを増やしていってもらえたらなって思いますね。
私は先生でもなんでもないけど、そうやってみんなに教えようと思ったら練習もせんといけんし。
家で何回も試作したりとか、スタッフに味見してもらったりしながらなので、自分でも勉強になりますし、好きでやらせてもらってます。」
―森藤さんは仕事ではなくてボランティアで関わってますよね。こういうことを10年以上続けられるのってなぜなんでしょうか?
「なんじゃろうなあ。たぶん、うちの子が小さい時にここに遊びに来よったけど、子どもが幼稚園に入って卒業したらここに来なくなるわけでしょ?
そしたら子どもがいないのにお母さんだけではなかなか遊びに来れないですよね。
でも、なんていうかな、それでもこことの関係を切りたくなかったというか、とても居心地がよかったので、
結局私が卒業できずに居座っちゃいましたって感じかな。子どもは卒業するけど、なんかお母ちゃんが卒業できんわって。ははは。
それからも何かしらお手伝いをして、ずるずる残って、そしたら今では時々やってくるスタッフとして使ってもらってますね。」
―居心地がいい、わかる気がします。
わいわい遊んでいるこどもの明るい声や泣き声がいつも聞こえるので、それだけでこっちも優しい気持ちになりますし。
お母さんたちも、みんなで一緒に遊んでるので。
「そうそう、で、『〇〇ちゃん、今日もズボンをどこかに引っかけて破っとったよ~』とかお母さん同士で報告し合ってるんですよ。
お母さん方も、自分の子だけを見とるわけじゃないから。お互いに見合って、誰かの子どもが足洗ったりしたら『はい』ってタオル渡すし、
三輪車乗ってたら近くにいるお母さんが押してあげよったりとか、そういう場面が多いからね。
お母さん同士もそれが1回や2回じゃないから、何回も通ううちに仲良くなって、居心地がいい雰囲気が出来てきよるんでしょうね、たぶん。」
―いいですよね。自分の子だけじゃなくて、そこにいる子をみんなで見守ってるっていうのが、
ここの居心地のよさに繋がってんじゃないかなと思います。
「スタッフのみなさんもとてもいい方が多いので、用が無くてもどこか出かけた帰りにちょろっと寄ってみたりとか、遊びにきてますね。
そういう人も結構いますよ。」
用が無くても足を運んでしまう。
森藤さんを始め、みんなにとってここは本当に居心地のよい場所なんだろうなってことが伝わってきました。
森藤さんだけでなく、小さい頃ここに通っていた中学2年生の娘さんも、たまに友達を連れてボランティアに来てるとか。
何かのイベントでボランティアが必要な時、中学生の子は恥ずかしいのかあまり来ることがないみたいですが、
森藤さんのお子さんがきっかけで、足を運んでくれる子も増えたそうです。
―森藤さんはチャイルドホームで今後どんなことをしていきたいんですか?
「今いろいろと便利になって、食べるものにしても、1年中いつでもなんでも手に入るようになってると思います。
それで、季節が感じられんようになってる気がして。子どもにとっても『これはいつが旬なの?』みたいな。
そんな時だからこそ、昔から伝わる食べ物や、旬の食材を使って、子どもやお母さんたちと季節を感じられるおやつづくりを一緒にしたいですね。
旬の美味しい時期に、美味しく食べようって。そういうことを親から子へ伝えるきっかけになればええなって思ってます。」
「草加さん、お話聞けた?」
色々とお話できたので、貝原さんが顔を出されたところで、インタビューはおしまい。
実は森藤さんと貝原さんのお子さんが同級生ということもあり、お二人は長いお付き合いだそう。
アルバムを見ながら、笑ったり懐かしんでいるお二人の姿はとても自然体で、和やかな雰囲気に包まれているように感じました。
―今日は有難うございました。将来僕に子どもができたら連れてきますので、森藤さんしっかり遊んでやってくさい。
「ふふふ。美味しいものつくりますよ。」
きっかけができたらええな。
お話の中で何度も出てきたこの言葉。
自分の好きなこと、得意なことが、誰かの何かのきっかけになる。
それは自分にとっても、相手にとっても、とても幸せなことではないでしょうか。
森藤さんにとっては、それがおやつづくりなんだと思います。
きっと今日も、チャイルドホームでみんなと一緒に笑いながらおやつをつくっていそうです。