音のある生活に繋げたい~なぎチャイルドホームってどんなところ?第2回~
春も半ばを過ぎ、まちの至るところに瑞々しい緑の葉が芽吹き始めた新緑の季節。
チャイルドホームの貝原さんから、是非遊びに来てほしいイベントがあるというご連絡をいただき、私は再びチャイルドホームを訪れました。
現地に着くと、なにやらにぎやかなピアノの音が聞こえてきます。
案内された部屋では、たくさんのお母さんと子どもたちが、ピアノの音に合わせて楽しそうに遊んでいました。
音遊びの時間
この日は、チャイルドホームで毎月1度行われている「音遊び」の日だそう。
音遊びとは、担当のお手伝いスタッフさんによって、ピアノや楽器を使いお母さんや子どもたちが一緒に歌ったり、身体を動かしたりしながら、「音」で日々の生活をより豊かにしようと始まった催しです。
今回は0歳児から4歳児くらいまでの子どもたちとそのお母さんたちが合計20名ほど参加していました。
春という季節もあって、「春が来た」や「チューリップ」、「ぶんぶんぶん」など、季節にちなんだ歌が演奏され、それに合わせて子どもたちが楽しそうに身体を揺らしています。
ただ演奏して歌うだけではありません。
伴奏をしながら、先生がこどもたちに「春と言えば何の花かな?」「お花に虫さんが飛んできたけど、いったい何の虫だろう?」と問いかけて、子どもたちそれぞれの答えを聞きながら、演奏する曲をアレンジして臨機応変に進めます。
お母さんたちも巻き込みながら、そこにいる人みんなで作り上げているような時間。
その様子はまるで、NHKの「お母さんと一緒」みたいだな、なんて思いながら、その光景を眺めていました。「元気に身体を動かしている子どもを見ると、私も元気になるからいいよね。」参加されていたお母さんが言われていました。子どもたちも毎月のこの時間をとても楽しみにしているそうです。
音遊びの時間が終わった後、担当のお二人にお話を聞かせていただきました。
草加:音遊びの時間、子どもたちの表情がとても生き生きしていて、楽しさが伝わってきました。もともとお二人はどこかで音楽を教えられてたんですか?
植月:音楽は教えてないんですけど、私はもともと保育士をしていました。子どもが好きなので、今も子どもと関わる仕事をしています。
鈴木:私も昔から子どもが好きなので、音楽教室を開いたり、ピアノを教えたりしています。
草加:ああ、やっぱり、子どもや音楽に関わるお仕事をされていたんですね。演奏はもちろん、子どもたちへの接し方がとてもお上手だったので。
チャイルドホームでお手伝いスタッフをされて長いんですか?
植月:そうですね。立ち上げの頃から関わっていました。その時私はマミークラブ(母子クラブ)の活動や、絵本の読み聞かせボランティアのおひさま文庫のメンバーとして、ここが立ち上がる前の協議会から参加していて。
鈴木:私は当時、町の主任児童委員をやってまして、植月さんと同じで立ち上げの協議会から参加していたので、今11年目になるかな。
草加:11年目!それは長いお付き合いですね。この「音遊び」は立ち上げ当初からあったんですか?
鈴木:いえ、音遊びはここができて2年目からかな。1年目は、ここで子ども達の為にどんな活動ができるか、見学しながら模索していて…、自分はピアノの先生をしているので、自分には「音しかないな」って思ったんです。小さい子にも、音があったら楽しいよっていうことをお母さんたちに知ってほしくて、2年目から始めました。最初はこれを一人でしていたのでとても大変だったんですよ。
草加:へえ、最初から植月さんと一緒にやられていたわけじゃなかったんですね!
鈴木:はい。やり始めて2~3年くらい経ってから、友達のピアノの先生が手伝ってくれることになって、その方が辞められるタイミングで、植月さんと一緒にやるようになりました。
もうだいぶ長いけん、そろそろ植月さんにバトンタッチしたいんだけど…?
植月:こらこら、まだ辞められたら困ります(笑)
鈴木:音ってほんとに楽しいから。みんなで一緒に音に合わせて飛んだり跳ねたり、遊んだりすることが楽しいんだよって、お母さんにも子どもにも知ってほしかったんです。
この場所で、自分が何をするか、何かしてあげたいって自分でできることを考えた結果、音遊びの時間ができました。
生活の中に音を感じることができたらいいよね
草加:毎月あの音遊びをやるのって、準備も含め大変そうですね。
植月:そうですね。事前に出欠をとらないので、当日何歳の子が何人くらい来るのか分からないのね。だからある程度打ち合わせはするけど、0歳児と3歳児じゃできることって全然違うから、その場その場で対応しなきゃいけなくて。
鈴木:一回0歳児ばっかりの時があって、その時は何するん?って慌てた時もあったけどね。
植月:そんなこともあったなあ。その年齢なりに音を感じてくれたらいいなとは思っていて。0歳児なら耳で感じるだけでもいいし、お母さんに抱かれてゆらゆらしてるだけの音遊びでも全然いいんですよ。大きい子は自分で動いたり遊んでくれたらいいし、それぞれの年齢で音を感じてくれたら、もうばっちりなんですけど、ただ0歳児だけしかいなくて、「おっと!どうする」みたいなことが一度だけあって、「これはみんな動けんなあ」って感じで。
鈴木:もうその時は、お母さんたちに協力してもらいながら、なんとかやり切りましたけどね。大変でしたけど楽しかったです。
草加:音遊びを行ううえで、大切にしていることはありますか?
植月:うーん、そうですね…。音遊びの中に、リズム遊びだったり、昔からある季節の童謡を必ず1曲はいれるようにしてますね。
鈴木:お母さんたちでも、だんだん童謡を知らない人が増えてますからね。
草加:童謡ですか。確かに、僕も聞いたら思い出すけど、歌うとなると忘れちゃってることが多いかもしれません。
鈴木:そうそう。だから強引に黒板に歌詞を書いて、「今日はこれを歌いましょう!」って言うこともありますね(笑)
植月:子育てしてる時、自分もそうだったんですけど、外をお散歩しててチューリップがそこに咲いてた時に、チューリップの歌が自然に歌えて楽しめたり、蝶々が飛んでたら蝶々の歌を口ずさんだり、そういうことを自然に散歩中や生活の中で子どもと一緒に楽しんでくれたらいいなっていう。生活の中に音を感じることができたらいいよねって。
鈴木:だからそれって子どもだけじゃなくて、お母さんにも気づいてほしいのね。
植月:うんうん。ちょっと歩く時にもリズムをね、らららって口ずさんでもいいと思うし、そういう音をね、しっかり感じてほしいなって、表現も出してほしいなっていうのは自分たちも思っていて。
鈴木:そうそう。音遊びの時間、私たちの場合、表現を伝えようとするあまりコントみたいになっちゃうよね。強い風が吹いた時に、チューリップが(大きなジェスチャーを交えながら)こうやって揺れるじゃないですか~って。ははは。
植月:そうじゃなあ。2人とも伝えたいことはしっかり持ってやってるから、本番は結構身体張って頑張るよね。
草加:確かにさっきの音遊び、お二人ともほんとにすごかったですもん。歌のお姉さん顔負けの表現力でした。でもそうやってお二人が全身を使って表現することで、子どもたちも恥ずかしがらずに自分を表現できるようになる気がします。
子どもの根っこを育ててあげておきたい
草加:お二人はこの音遊びを今後どういう風にしていきたいですか?
植月:音遊びを続けられる間は、それぞれの年齢で音を感じて、生活の中に取り入れてもらって、音のある生活に繋げてもらえるような音遊びの場にしていきたいな。
鈴木:とにかく子どもの笑顔が見たいので、そんな笑顔がたくさん見れる音遊びにしていきたいです。音遊びで見える子どもの笑顔をお母さんたちに感じてもらって、音っていいなって思ってほしいな。音遊びで感じた音だったり、リズムだったりを生活の中に繋げれる音遊びにしていきたいですね。
草加:音のある生活、お二人が仰っていることの中で共通している軸のように感じます。
音が生活をより豊かにするというか。
鈴木:やっぱり情緒が安定することで、安らかな気持ちになれたり笑顔になったりすると思うし、親も子も情緒が安定する一部分に音があると思いますね。
植月:音の話とは少し逸れますけど、私は絵本の読み聞かせもやっていて、絵本の世界ってとても奥が深いじゃないですか。それって音にも通ずる部分が少しあると思うんです。
単純に音を感じて楽しくなる。絵本を見てその世界に入る。素直に、表現できたり、想像できたり。そういうところが育ってほしいな。
鈴木:うんうん。感受性がね。
植月:豊かになれるといいよね。絵本の中身と実体験が合った時って、すごく本が活かされることがあって。わが子で言うと、「お月様こんばんは」っていう本があるのね。その内容が、お月様を見たら、女の子が「こんばんは」って言うんですね、大きなお月様に向かって。それを実際にうちの子3人も同じことをしたことがあったんです。大きな満月を見て、みんな口々に「こんばんは~」って。そういう風に絵本と現実が重なった時って、普通ではない世界がその子たちの中にはある気がして。
鈴木:そうすると、感情が素直に表現できるんだよね。感動せんとそういうことはできんから。
草加:音遊びの時間の中に絵本の読み聞かせも取り入れてありましたもんね。なんだか、心がやわらかくなりそうです。
鈴木:音だったり、絵本だったり、色だったり、耳で聞いたり目に訴えるものが、特に幼いころには大事だと思っていて、そういうハッとするものが、子どもの感情を豊かにすることに繋がるんだと思う。
植月:それを伸ばしてあげれるのって、やっぱり一番身近にいる親だと思うのね。子どもが興味を示したものに対して、「ほんとだね~」ってちょっと寄り添ってあげたり、膨らませてあげたりできると世界が広がっていくし。
音遊びは子どもだけが参加するものじゃなくて、親子で一緒に揺れたり、高い高いしたり、目線を子どもに合わせながら共感できる時間をつくって、それが日ごろの生活の中に活かせてくるきっかけになればええなっって思います。
鈴木:大事なことだよね。ここで子どもの根っこを育ててあげておきたい。逃げ道にもなるしね。やっぱり逃げ道の無い子どもをつくっちゃおえんなって親としては思うけど、音で遊べたり絵が描けたり本が読めたりするのって、将来どこかで子どもにとっての逃げ道になる可能性がある気がするんよ。…なんだかだんだん大きな話になってきたなあ、ははは。
草加:そうですね。親が子どもにできることとして、音遊びにはたくさんのヒントが詰まってそうです。
出会いと癒しと学びの場
草加:最後に、お二人にとって、チャイルドホームはどんな場所ですか?
鈴木:私はちょっとおばあちゃん目線になるけど、チャイルドホームはとても有難いところだなって思ってます。
先輩お母さんたちが、電話1本で面倒を見に来てくれるし、参観日とか急用とか、そんな時にとても助かりますよね。若いお母さん、年配のお母さん、ここに来たらいろんな世代のお母さんたちに会えて、助け合えるし勉強にもなります。
チャイルドホームのスタッフさんたちも、どうしたら力になれるかなとか、喜んでもらえるかなって、とてもよく考えて動いておられます。
みんなボランティア精神が強くて、だから、いち利用者として受け身になってしまいがちなこともあるのですが、だからこそ、お互いに助け合う、お互いに感謝し合う気持ちが、ここを気持ちよく利用するうえで大切になんじゃないかな。
植月:うんうん、とても大事だと思います。チャイルドホームは、出会いと癒しと学びの場、といったらしっくりくるかもしれないですね。
草加:出会いと癒しと学びの場、ほんとにそうですね。利用者として全てしてもらうのではなくて、自分ができることを探したり、お互いに歩み寄りながら一緒につくっていく場でもある気がします。音遊びの時間を思い返すと、すごく腑に落ちました。
本日はありがとうございました。
音のある生活
大きくなると、自分の好きな音楽、聴きたい歌を自分で自由に選ぶことができますが、幼い頃は、親が意図的にそういう機会をつくらなければ子どもは音に触れられません。生活の中に音があることで、どれだけ豊かになるのか。それは音遊びを楽しんでいたお母さんや子どもたちの表情が物語っていたような気がします。
そして、今回お二人とお話してみて、前回インタビューした森藤さんと同じように、音のある豊かな生活を送る「きっかけづくり」をされているんだなと感じました。子どもや親の可能性を広げるきっかけに溢れた場所、なぎチャイルドホームがどんなところが、インタビューを通じて、少しずつ見えてきた気がします。